ビル・エバンス-インプロビゼーション・コンセプト

Dan Papirany氏によるビルエバンスの即興演奏概念を日本語訳したものです。まだまだ改良の余地があると思われますので、お気づきの点についてはお知らせください。

メロディーラインの変化
エバンスのメロディーラインは実によく構成されている。70年代ではそのアイディアが明確でそれぞれの長いフレーズに格差があり、簡素なものから複雑なものまで様々である。ひとたび彼の音楽を聴くと「わあ、なんてシンプルで美しいんだろう、ぜんぶ納得いくのになぜこれを思いつかなかったんだろう。」と多くがコメントする。エバンスの即興演奏概念では、あるフレーズが最初のモチーフとして次のフレーズへの発展に導き、コーラスが進行するにつれて複雑なものへと変化していく。エバンスはコーラスを多数回繰り返すことを好まず、事実音楽的な表現には2~3コーラスが十分と考えていた。また、ある演奏者のアイディアが途切れ次のコーラスへの折り返し地点に近い時は、即興演奏を終わらせるのが最良の選択肢としていた。エバンスの即興演奏には使い古しがなく即興への挿入部分にはとても風情があった。このような点からエバンスは純粋なミュージシャンだったといえるだろう。 以下は70年代のエバンスの即興演奏から取った典型的なメロディラインの例である。01

1小節目は典型的なモチーフを示し、後の小節で変化していく。この五線譜でのリズムは類似しており、またそれぞれが和製的な変化をもたらしていることにはさらに注目できる。4小節目ではキーボード上の高音部での演奏に切り替えリズムが両方の五線で複雑化しているため、さらにドラマチックな効果を作り出している。

ハーモニックアプローチ(和声への取組み)
エバンスのハーモニーは、他のミュージシャンに比べてとても高度である。彼はドビュッシーやラフマニノフ、ジャズではバドパウエル、チャーリーパーカー、ジョージシアリング等の影響を受けているが、管楽器のような即興演奏メロディでの影響はバドパウエルにある。ハーモニー(和声)ではジョージシアリング(ブロックコード)やジョージラッセル(モード奏法)の影響が見られる。マリアンマックパートランドのインタビューで、エバンスは偉大なジャズ演奏家すべてが影響したと断言している。エバンスの和音への取組みはクラシックとアメリカのポピュラーミュージックに起源する。1956年、彼がジャズシーンに初めて現れたときに見せた和声への取組みはとても新鮮なもので、既に自作の曲は和声的にとても高度だった。ある曲のコード進行が簡単なものである場合に、彼は自分の好みに合わせて変化させた。エバンスが2音ボイシング(発音)を使う場合のメインは3度と7度であり、モダンジャズやビバップの演奏者にこの取組みは非常に有名である。以下の例は2通りの2音ボイシングをCメジャーキーで示す。EX2aの最初と最後の和音は(ルート(根音)を除いて)3度を低い位置においている。

02EX2bでは(ルートを除いて)和音を反転し最後の和音は7度を低い位置においている。

03EX2cはエバンスによる2音ボイシングの用法である。この楽譜はエバンスのオリジナル曲「Orbit」の抜粋である。1小節目のコードはGm9、Fを7度、Bbを最高部においている。同じ小節で次のコードはE+7、3度を下部に置き7度を上部に置いている。2小節目の最初のコードはAm9でエバンスは再び(バドパウエルのような)標準ボイシングを使用し、7度を下、3度を上としている。

EX2c

04

In your own sweet way(Dave Brubeck)はエバンスがよく演奏した曲である。このような曲は大抵シンプルな構成で書かれ、作曲家や演奏家はこの基本構成に別の要素を加えることで複雑化させている。この曲はAABAという4つのセクションから成る。最初のAセクションのコード進行はAmb5/Gm/Cm/Bbmaj/Abm/Gbmaj/Cmb5/Bbmaj。最初のコードの前の3拍目と4拍目にドミナントコードを加えることでさらに面白い音を結果として得られる。Aセクション残りのコードにも同じ方法を適用できるので、結果としてコード進行はAm7b5, D7 /Gm7, C7/Cm7, F7/Bbma7, Ebmaj7 /Abm7b5, Db7/Gbmaj7, Bmaj7 /Cm7b5, F7/Bbmaj7, Ebmaj7/となる。エバンスは一度ハーモニーを確立させると次いでコードの装飾(どの音をコードの一部として使うか)を選ぶ。エバンスは多数の方法でコードを発音する。この曲の最初のコードはAmb5で、その基本構成はEX3の1小節目のように描かれる。まず出来ることはそのコードを反転させ音をより面白くすることである(2小節目)。そして次に7度であるGを加える(3小節目)ここでこのコードは最初のものより面白いものとなる。エバンスにとってこれは十分ではなく、ベーシストがA音をルートとして演奏する場合、ピアニストはルートを弾く必要がなくなるので、エバンスは3度、7度に9、11、13度の中から適切なものをアッパーストラクチャートーン(またはテンションという)として加える(4小節目)。その他のエバンスが好むボイシングを5小節目に示す。

EX3

05エバンスは5度を使用することもある。特にアッパーストラクチャーの音を好みハーモナイズ(和声)、リハーモナイズ(再構成)、即興演奏やイントロダクションなど多用した。EX1では3音、4音、5音ボイシングが見られる。最初のコードはBm7の3音ボイシングだが、エバンスは9度を下部に使い、3度、5度(7度は省略)を上に続けている。2小節目のコードのボイシングはより一風変わったCmaj7である。13度を下に置き、ベーシストがルートを弾いているにも関わらず7度とルートを後に続けている。3小節目はシンプルなFm7ボイシングでルート、3度、5度、7度に9度を下から2番目に加え、普段あまり使わない4番指(薬指)をもピアニストに使わせる。70年代のエバンスによる3音、4音、5音ボイシングはいたって普通だが、60年代、テンポの速い曲では2音ボイシングを主に使っていた(バドパウエルの影響)。

イントロダクションにおいてエバンスは、コードと一緒にメロディーも和声化し、メロディーの元の音階を維持しながらコードの一部として組み込むことでメロディーラインをハーモニーの最上部の音としていた。

アッパーストラクチャー
アッパーストラクチャーの用法によっては非常に面白いハーモニーを作り出すことも可能である。問題はそれぞれの基本ボイシングがあらゆるアッパーストラクチャーになりうる(コードの代用などによるもの)中で、その瞬間に適切なものを選び出す難しさにある。エバンスは変調やキーを問わず適切なアッパーストラクチャーを演奏する能力があった。これは長年のハーモニーの研究による成果である。ジョージプラットというベーシストとの共演を経て、エバンスはジャズの理論がどのようにして作られたかを学んだ。「プラットはコード進行についてよく知っていて、ハーモニーにも理解がありアレンジを書いていた。そして何より作業に対する忍耐力があった。プラットは私にコードチェンジを1年ほど呼びかけていたが、勉強するよう進められることはなかった。最終的には、それぞれのコードチェンジについて考えるのをやめて、根本的な理論が基本となるシステムで作業を進めた。たとえば1、5、6とか番号だけを使うとか。そうしたらどうして音楽がうまくまとまるかわかってきた。」

メロディーの概念を解析
エバンスの取組み方は、それぞれのラインが次のラインにつながることにある。結果としてそれはフレーズの集合となり、まるでエバンスがアドリブで物語を語るかのように聞こえる。エバンスはあるアイディアを繰り返し使うのだが、音階や調が変わってもリズムはそのままにし、時にはその繰り返しを4~8小節も続けるなどしてエバンスのライン組み立ての特徴を強めていた。EX4の1小節目のフレーズは、次の2小節目のハーモニーに合うように音階を変更している。

EX4

06フレーズとリック(挿入楽節)
A.フレーズの長さと置き換え

エバンスは50~60年代にかけてテンポの速い曲を演奏していたが、これは自然と演奏者に短いフレーズを使うことを余儀なくさせていた。70年代になるとエバンスによるテンポの速い曲はまれになったが、晩年最後に近づくにつれてトリオで速い曲を演奏する回数が増えていった。フレーズの長さの変化は彼自身の演奏に対する自身の成長の結果である。「私は同一ラインに留まるが、演奏が続く限り私は少しでも深く掘り下げようと試みる。多分私の左手のほうが少し安定しているだろう。もちろん私は中音にも多々取り組んでいる。ジャズ演奏を続けるうちに、リズムの組み立てとボイシングがかなり進化していると私は思う。これがリスナーにとってどれだけ明白なのかはわからないが、フレーズの置き換えやフレーズ間の取次ぎとか、拍子に対する配置の仕方などは私は懸命に取り組んできたものであり、また信じているものだ。トレンドについてすることも少しはあるが、ジャズに対する自分の基本概念についてはもっとすることがある。そしてジャズメロディとリズムを保ったまま次へつなげることには更に深く掘り下げていきたい。年を重ねるごとに私はその方向に進んでいき、自分が満足いくものを作る、そうしたら何が起こるかわかるんだ。」

B.クローマティック(半音階)フレーズ

エバンスは、早い頃から半音階を実験している。これはビバッププレイヤーがよく使っていたものだ。これらのフレーズは定期的にエバンスの演奏に登場し、70年代初頭まで発展し続けた。RE:PERSON I KNEW、BLUE IN GREEN、SINCE WE METなどのアルバムを聴くとこれら半音階フレーズが見られる。実験のとき、エバンスはこの半音階だけに専念していたわけではなく、通常のフレーズに取り込むことで最終的に更にカラフルな即興演奏へと発展させた。EX5では、中範囲にわたるインターバルから小範囲な半音階インターバルへと続く典型的なリックを示している。1小節目の1~2拍目はFm7のアルペジオ(3度で構成)、4拍目と2小節目の1拍目はCからBbへの半音階下降である。

EX5

07
EX6は小範囲な半音階の展開へ続く広範囲にわたるインターバルを使用したエバンスの例を示す。1小節目の4拍目は短7度(広範囲)からBbからGへの半音階へと続いている。

EX6

08
結論
このビルエバンスのインプロビゼーションコンセプトは、エバンスの学生時代から1980年の彼の最後までを分析した結果である。ビルはミュージシャンとして自信の演奏に満足せず、絶え間なく成長し続けた。ここではエバンスの発展を3つの段階で観察した。
1956-1970:バドパウエルのような管楽器フレーズ
1970-1978:3~4和音で形成されるハーモニーとリズムを重視した特徴を持つメロディ、フレーズ間の長い間隔、広範囲なインターバルを交えた半音階の使用
最後の段階はたった2年で終わってしまったが、エバンスの演奏は更に冒険的になり、過去に類を見ないフレーズから成り立っている。リズム面では変化に富み(積極的)、即興部分でのフレーズは構造的な発展が少なくなっている。

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